どんなにていねいに働いていても、医療の現場には「ヒヤリとした」「あやうく間違えそうになった」という場面があります。これは特定の職場の話ではなく、どの施設にも共通してある一般的な課題です。
私は現役の放射線技師ですが、こうした“ヒヤリ”をどう減らすかを考えるとき、AIや自動化が助けになる部分があると感じています。今日は、具体的な事例には踏み込まず、一般論として「AIをどう活かせそうか」を整理してみます。
はじめに大事なことを。この記事では、実際のインシデント事例や、特定の職場の出来事は一切扱いません。あくまでどの現場にも当てはまる一般的な考え方の話です。実際の安全管理は、必ずお勤め先の規程・手順に従ってください。
ミスの多くは「うっかり」と「思い込み」から
一般的に、現場のヒヤリの多くは、人を責めるような“悪意”から起きるものではありません。忙しさによるうっかりや、「たぶん大丈夫だろう」という思い込み、確認の抜け——といった、誰にでも起こりうるところから生まれます。
ということは、ミスを減らす方向性も見えてきます。人の注意力だけに頼らず、抜けにくい“仕組み”でカバーする。ここに、AIや自動化の出番があります。
AIが助けになりそうな部分1:「確認の型」を整える
ひとつめは、確認の手順を“型”にしておく使い方です。
たとえば、チェックすべき項目を毎回ゼロから思い出すのではなく、もれのないチェックリストの型をあらかじめ用意しておく。その“型づくり”は、AIに下書きを手伝ってもらいやすい部分です。
こんなふうに頼みます。そのまま貼って、【 】だけ埋めてください。
医療現場の一般的な「作業前の確認チェックリスト」の型を作ってください。
・場面:【 】(例:検査前の準備、機器の始業点検、など一般的な言い方で)
・「確認する項目/いつ確認するか/チェック欄」が一目で分かる表の形
・特定の施設・機器の情報は入れず、どこの職場でも使える一般形で
・最後に「この型を自分の現場に合わせて直すときの注意点」を3つ添えてください
出てきた型は、必ず自分たちの現場の手順と照らし合わせて直してから使います。AIの型はあくまでたたき台で、最終判断は現場の人間とルールの側にあります。ここで入力するのは一般的な内容だけで、患者さんや職場が分かる実物は入れません。
AIが助けになりそうな部分2:「分かりにくさ」を減らす
ふたつめは、伝わりにくさ・読みにくさを減らす使い方です。手順書や注意書きが分かりにくいと、それ自体がヒヤリのもとになります。
自分で書いた一般的な手順の文章を、「だれが読んでも分かるやさしい表現に整えて」とお願いする。要点を短くまとめ直してもらう。こうした“読みやすさの底上げ”は、AIが得意とするところです。分かりやすい手順は、それだけでうっかりを減らす助けになります。
頼み方の例です。手順文は、固有名を伏せた一般的な内容にしてから貼ります。
次の一般的な手順の文章を、初めて読む人にも分かるように整えてください。
・一文を短く、作業の順番どおりに並べる
・特に注意が必要なところは、行頭に「⚠️」を付けて目立たせる
・内容は変えず、あいまいな部分は勝手に補わず【要確認】と印をつける
(ここに、固有名を含まない手順の文章を貼る)
「勝手に補わず【要確認】」の一行は、安全がテーマの文章では特に大事です。AIがそれらしく埋めた一文が、現場の実際と違っていたら本末転倒ですから。
任せてはいけない線も、はっきりさせる
一方で、線引きも忘れてはいけません。「異常かどうかの判断」や「個別の対応の正解」をAIに決めさせることはしません。それは人の責任で行う領域です。
また、当然ながら、実際の事例・患者さんの情報・職場が分かる話をAIに入力しない。これは安全管理の話である以前に、情報を守るうえでの大前提です。AIに渡すのは、あくまで一般化された内容だけにとどめます。
この「入れない」を毎回確実にするには、最初にAIへ守りのルールを渡しておくのが確実です。作り方はこちらに書きました。
→ AIに「これだけは守って」を最初に渡す。情報漏洩を防ぐルールファイルの作り方
「責めない」と「仕組みで防ぐ」の両輪で
インシデントを減らすうえで大切なのは、起きたことを個人の責任だけにせず、仕組みで防ぐという発想だと言われています。AIや自動化は、その“仕組み”づくり——確認の型を整えたり、分かりにくさを減らしたり——を後押ししてくれる道具になり得ます。
派手な使い方ではありませんが、地道に“抜けにくい仕組み”を整えていくこと。その積み重ねが、現場の安心につながっていくのだと思います。まずは、チェックの型を整えるところから、気軽に試してみてください。
【お知らせ】「安全に使う仕組み」一式をnoteで公開しています
“仕組みで防ぐ”は、AIの使い方そのものにも当てはまります。使う側の守りの仕組みをひとまとめにした、私の有料note(500円) を公開しています。宣伝にはなりますが、「便利さの前に、まず事故を起こさない形を作りたい」という方には合う内容だと思います。
- AIに最初に渡すルールファイルの完全版+職種別の追記例(技師・看護・事務)
- 患者情報を入れずに使える安全プロンプト集10本(検査説明・議事録・報告書テンプレなど)
- うっかり入力してしまった時の対応マニュアル
- 職場に提案できる院内AI利用ガイドラインのひな形(全文)
→ 医療職のためのAI安全活用スターターキット〜「使いたいけど怖い」を、今日おわらせる〜
第1章まで無料で読めますので、まずはのぞいてみてください。
※本記事は一般的な考え方を紹介するもので、特定の事例・運用・効果を示すものではありません。実際の安全管理やインシデント対応は、各職場の規程・手順に必ず従ってください。患者・職場が特定できる情報はAIに入力しないでください。

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