AIに文章を手伝ってもらうと、説明文づくりや言い回しの調整がぐっとラクになります。ただ、医療の現場で使うときには、便利さの前にどうしても守りたい一線があります。それが、患者さんや職場が分かる情報を、AIに入れないということです。
私は現役の放射線技師ですが、AIに医療まわりの文章を頼むときは、いつも同じ“型”を使っています。今日は、その型を具体的な言いかえ例といっしょに紹介します。難しい設定はいりません。考え方さえ身につけば、いつものチャット画面でそのまま使えます。
はじめに大事なことを。ここで紹介するのは、あくまで一般的な文章づくりの工夫です。個別の診断や、患者さんへの個別アドバイスをAIに作らせる話ではありません。その線引きは、便利さより先に守ってください。
大前提:入れていいのは「一般的な情報」だけ
最初に、AIに渡していいものと、絶対に渡してはいけないものを分けておきます。
渡してはいけない(情報漏洩につながる)
- 患者さんが分かる一切(名前・年齢・性別・病名・検査日・画像など)
- 職場が分かる情報(病院名・地域・部署の規模・固有の機器名など)
- 院内の非公開ルールや、実際のトラブルの生データ
渡してよい
- どの施設にも当てはまる、一般的な手順や考え方
- 自分が書いた、固有名を含まない文章(言い回しを直してほしいとき)
迷ったときの自問はひとつだけ。「この文章、自分の職場や患者さんだと分かる人がいないか?」。少しでも引っかかったら入れない。これが全部の土台です。
コツ1:具体名を「○○」に置きかえてから渡す
いちばん使うのがこれです。実物をそのまま貼るのではなく、固有の部分をすべて伏せ字や一般語に直してから頼みます。
- 「△△病院の…」→「ある医療機関の…」
- 「□□さんの検査が…」→「ある患者さんの検査が…」(そもそも個別の人の話はしない)
- 具体的な機器の型番や日付 → まるごと削る
よく使う言いかえを、表にしておきます。
| そのまま入れがちなもの | 安全な言いかえ |
|---|---|
| 患者さんの名前・イニシャル | 入れない(そもそも個別の人の話をしない) |
| 病院名・施設名 | 「ある医療機関」「一般的な病院」 |
| 地域・最寄り駅 | 削る(都道府県より細かくしない) |
| 機器の型番・メーカー名 | 「CT装置」「電子カルテ」など一般名 |
| 実際の日付・時間帯 | 削るか「ある日」にする |
| 実際のトラブルの経緯 | 「一般に起こりやすい○○という課題」に直す |
ひとつ注意したいのが、「組み合わせ」で特定されることです。名前を伏せていても、「珍しい病気+年代+地域」のように条件が重なると、絞り込めてしまう場合があります。1個ずつはセーフに見えても、組み合わせて誰かが分かりそうなら、その話は丸ごと書かない。ここまで含めて「伏せる」です。
たとえば「検査の説明文を作って」と頼むときも、架空の・一般的な設定で頼みます。「一般的なCT検査について、初めての方向けに、流れと注意点をやさしく説明する文章のたたき台を作って」——これなら、現場の情報は何ひとつ入っていません。
コツ2:「たたき台を作らせる」と割り切る
AIに完成品を求めず、下書きづくりだけを任せると考えると、安全に使いやすくなります。
出てきた文章は、必ず自分の目で読み、自分の言葉に直す。この一手間があるおかげで、
- 事実として変なところがないかを自分で確認できる
- 自分の現場に合わない表現を落とせる
- 結果として、漏洩のリスクも自然に下がる
AIは「ゼロを1にする」のが得意ですが、最後に責任を持って整えるのは人です。この役割分担を崩さないのが、安全に長く使うコツだと思っています。
コツ3:自分の文章を「整えてもらう」方向で使う
ゼロから書かせるより、自分が書いた一般的な文章を、AIに整えてもらうほうが安全です。元の文章に固有名が入っていないことだけ確認すれば、あとは安心して頼めます。
- 「この文章を、もう少しやさしい言い回しに直して」
- 「この手順を、読みやすい順番に並べ替えて」
- 「この説明を、中学生にも分かるくらいかみくだいて」
自分の考えが元にあるので、出てきた結果もチェックしやすく、納得して使えます。
コツ4:困ったときの「お願いの一文」を決めておく
私は、医療まわりの文章を頼むときの最初の一文を、だいたい決めています。コピペで使えるように置いておきます。
これから一般的な医療の文章づくりを手伝ってほしいです。
・患者・職場が特定できる情報は一切含めません
・もし私がうっかり具体的な情報を書いたら、指摘して止めてください
・出てきた文章は私が確認してから使います
毎回これを置いておくと、自分自身への注意書きにもなります。AIに言い聞かせる前に、まず自分が線引きを思い出すための一文、という感覚です。
この「最初に渡す一文」をもっとしっかり作り込みたくなったら、次の段階は「ルールファイル」です。作り方は別の記事に詳しく書きました。
→ AIに「これだけは守って」を最初に渡す。情報漏洩を防ぐルールファイルの作り方
便利さの前に、一線を
AIは、忙しい医療現場の文章仕事を、確かにラクにしてくれます。でも、いちばん大事なのは速さや便利さではなく、患者さんと職場を守る一線を越えないことです。
「具体名は○○に置きかえる」「たたき台と割り切る」「自分の文章を整えてもらう」。この型を覚えておくだけで、AIは安心して付き合える道具になります。まずは固有名を伏せた、当たり障りのない文章から試してみてください。
具体的な使いどころの実例は、こちらの記事でも紹介しています。
→ 検査説明の定型文、AIで「型」にしたら毎日10分が浮いた話
【お知らせ】この「型」の完全版をnoteで公開しています
この記事で紹介した“安全に書かせる型”を、そのまま仕事で使える形まで仕上げた、私の有料note(500円) を公開しています。宣伝にはなりますが、「型は分かった。あとは実物がほしい」という方には合う内容だと思います。
- 患者情報を入れずに使える安全プロンプト集10本(検査説明・議事録・報告書テンプレなど。各「なぜ安全か」の解説つき)
- AIに最初に渡すルールファイルの完全版+職種別の追記例(技師・看護・事務)
- うっかり入力してしまった時の対応マニュアル
- 職場に提案できる院内AI利用ガイドラインのひな形(全文)
→ 医療職のためのAI安全活用スターターキット〜「使いたいけど怖い」を、今日おわらせる〜
第1章まで無料で読めますので、まずはのぞいてみてください。
※本記事は一般的な文章づくりの工夫を紹介するもので、特定のサービスの利用を勧めたり効果を保証したりするものではありません。AIには患者・職場が特定できる情報を入力しないでください。職場で独自のルールがある場合は、必ずそれに従ってください。

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